明星

東雲あかりの現代詩

海へ行く

街には雑音が充満しているから
呼吸をするのもままならない
夜が訪れたなら
鏡に映したもう一人の自分を連れて、海へ行こう
地図も標識もない
誰かの足跡をたどりながら
冷めやらぬアスファルトを踏みしめて

指先をつたう静脈血は止血をしても止まらない
身体中の血液が流れ出してしまう前に、

高層建築物の谷間で
もう一人の僕が怯えている
ここから逃げ出そうとするのは
想像していたよりも難しいのかもしれない
痛みを増す両足をひきずりながら
動かないほうの足は
しつこくつきまとう野良犬にくれてしまえ
残された片足は、もう一人の僕のために

はるか昔に片方の心臓はつぶれてしまった
今となっては
左胸だけが鼓動を打ち続けている
海にたどり着く前に僕は
きっと死んでしまう
だからもう一人の僕よ、
どうか片足だけでも海へ運んでおくれ。