もう夜が明ける
月もなく
まだ日もない
東の彼方に
空がある
波間にゆらめく蜃気楼は
漁り火か
不知火か
そちらは暗く寂しいですか
かはたれどきの
廃墟の谷間に身をひそめ
瓦礫の輪郭を
ひとさしゆびでなぞっている
時雨のように泣いていた
耳朶の奥までしのび寄る
迎えにきて
迎えにきてと呼んでいる
探してよ
夜明けのとばりにつづられた
ゆびさきに残された記憶を
影絵の街並みに
埋もれたまま
あの空の
曙光にのまれゆく明の星
誰もいない
ブランコの隣で
身じろぎもしないで
待っているんだ
今もここで
待っているんだ